ケーススタディ

こんにちは！Tachyon編集部です！ 本日より連載を開始する”ビジネスケーススタディ”シリーズ。 皆さんの何気ない生活の裏側には、数々の企業が実現してきた画期的なビジネスモデルやアイデアが隠れています。その”素敵な物語”をケーススタディとしてご紹介し、ケース面接やインターンシップジョブに役立つTipsとして発信するコラムです。 誰もが知っているアノ企業から、耳にしたことのない小さな企業まで、その一つ一つに、壮大で泥臭いストーリーが隠れています。彼らの成長戦略を小説のように楽しみながら、キャリア選択における学びの場としてご活用ください。 コラムを通して皆さんに習得してほしいのはあくまで、”戦略の思考法”。目的は、個々のケーススタディを暗記することや、ケース面接にフレームワークとして脳死で当てはめることではありません。無数のワクワクする”過去”との出会いを通して、戦略立案が如何に”自由か”体験していただきます。 本コラムシリーズを読み切った頃、皆さんにとってのケース面接が「”アイデア”を捻り出すだけの途方もない作業」から、「複雑に絡み合った要素を解釈してデザインする”戦略”立案への挑戦」へと変貌することを願っています。 1.はじめに 記念すべき第一回の主人公は「サウスウエスト航空」です。 ケーススタディとしては有名な企業ですが、正直ピンとこない方も多いのではないでしょうか。実は1970年代に創業されたこの会社は、皆さんも一度は耳にしたことのあるLCC(格安航空)の元祖であるといわれています。 今では当たり前の存在である格安航空ですが、当時は航空業界の常識をぶち破り、業界に新たな旋風を巻き起こした画期的なビジネスアイデアでした。この企業のビジネスモデルには、一回のコラムで書ききれないほどの革新的なアイデアが詰まっています。 では、サウスウエスト航空は如何にして航空業界に革命を起こしたのでしょうか。 Part1 : 1970年代のサウスウエスト航空がとった全社戦略 Part2 : その全社戦略の実現にむけた驚くべきコストカット手法 の二部に分けて解説していきます。 今回のキーワードは ①「ニッチ市場への集中戦略」 ②「間接代替材」 です。 2つのキーワードを頭に入れながらストーリーを追いかけてみてください！ では、アメリカで航空業を営むサウスウエスト航空の成功事例から、ビジネスケースにおける新たな示唆を得る旅に出ましょう！ 2.1970年代のアメリカ航空業界 1970年、当時のアメリカの大手航空会社は 「ハブアンドスポーク」と呼ばれる飛行ルートを用いた効率的な航空運航システムをこぞって採用していました。 「ハブアンドスポーク」とは、ハブ空港と呼ばれる大きな空港同士をつなげる主要航行線をメインルートとして、地方の小さな空港を最寄りのハブ空港とのみ結ぶ形で運行を進める仕組みのことです。(以下、参考画像/水色:ハブ空港) ハブ空港に一度全ての顧客を集中させ、そこから別のハブ空港、または地方の小空港に顧客を輸送するのが、このシステムの特徴です。 ハブアンドスポークの最大の利点は、運行便の満席率を高めた状態で輸送網が構築できるため、航空会社が効率よく経営できる点にありました。各航空会社がこぞって採用していたのも納得です。 一方、ごく一部の利用者にとっては非常に大きな手間を要していたのも事実です。地方空港同士を繋ぐ手段が存在しないことから、飛行機での移動の際に無駄なハブ空港の経由を必要としたり、車による追加移動を伴ったりするためです。 このように、大手の航空会社が効率性を突き詰めた結果生まれたこのシステムは、ごくわずかな一部の利用者のニーズに対応することができないという、些細な欠陥を抱えていました。しかし、地方空港から地方空港へ飛行機で移動する利用者の数は多くなかったため、当時の航空会社は経営効率の観点からその改善を図ろうとはしませんでした。そこへ一石を投じたのが「サウスウエスト航空」だったわけです。 3.サウスウエスト航空の戦略 ~ポイントtoポイント方式~ その1 ニッチ市場への集中戦略 当時のサウスウエスト航空は開業したばかりで、保有する航空機は僅か3機。彼らは、メインストリームであるハブ空港同士を繋ぐ航路で、大手の航空会社と戦うことは、得策ではないと考えました。 そこで編み出したのが、「ポイントtoポイント」方式です。 ポイントtoポイント方式とは、距離が近い地方の小規模空港同士を、ハブ空港を経由することなく、直通で結ぶ方式です。 これまで、大手航空会社は収益性をあげるため、利用客数の少ない地方空港同士の直通便をおざなりにしていましたね。そのため、地方間の移動を希望する人々は「一度ハブ空港をわざわざ経由して遠回りする」か「別の移動手段を用いて移動する」という二択を迫られていたわけです。 彼らの中には当然、飛行機という早くて楽な移動手段によって無駄なく小空港間を移動したいというニーズが存在していました。サウスウエスト航空は、それらのごく僅かなニーズを拾い上げることによって、ニッチな市場で収益をあげる道を選んだということになります。 結果からお伝えすると、サウスウエスト航空は、地方の中小空港同士を繋ぐというセオリー外の戦略で、大手の航空会社がカバーしていない航路における覇権を握るに至ります。 さらにここから始まるサウスウエスト航空の躍進は凄まじく、小さな無名の航空会社から、世界で最も安全な航空会社top10へと上り詰めたのです。 この時生まれた安価な飛行機による移動手段の確立こそが、LCCの元祖とも呼ばれる会社としての経営の方針と言われています。 航空業界における革命を巻き起こしたサウスウエスト航空の戦略は、今を生きる格安航空の戦略の根底にあると言っても過言ではないでしょう。 さて、サウスウエスト航空が採用したポイントtoポイント方式という戦略は、市場のリーダーたちが取ることのできていないニッチな市場に戦いに行くという点において、比較的シンプルなモノに感じた方も多いのではないでしょうか。しかし、サウスウエスト航空が今の地位を確立するまでに戦わなければならなかったのは、航空業界だけではありませんでした。 その2「間接代替材」 地方の小空港同士の移動手段は、必ずしも飛行機だけとは限りません。そもそもハブを経由するのが面倒くさい、というくらいの距離であれば、車で移動することも珍しくないからです。 ましてアメリカでは、幹線道路が十分に機能していたため、車での移動に対する抵抗感は殆どありませんでした。 ニッチな市場で戦う場合でも、せめて採算が取れる程度には顧客を獲得する必要があります。彼らの戦略は、飛行機という単一市場においてはうまく穴をついた戦略でした。しかし、そうであるが故に、自動車という新たな移動手段までも代替する必要があったというわけです。 では、どのようにして彼らは自動車に勝ったのでしょうか。 サウスウエスト航空は、飛行機と車という異なる移動手段における違い。特に、利用客のニーズの明確な差異に注目しました。 ユーザーにとって、車という移動手段の最大のメリットは、飛行機に比べて圧倒的に安く、ある程度小回り/自由がきくことにあります。。 一方で、あえてデメリットをあげるとすれば、自ら運転をしなければならないという手間にありました。 車で移動しようという顧客は、とにかく無駄を省いて急いで移動できることを求めています。彼らに豪華な体験や、快適な空間は必要なく、短時間で目的地に到着できれば、それに越したことはないのです。 しかし、当時の旅客機の市場では機内サービスの充実化がトレンドとなっていました。 各航空会社はいずれも同じ航路を同じ金額と所要時間で運行するため、機内サービスの充実化による体験価値向上を通して、競合との差別化を図っていました。 そこでサウスウエスト航空は、競合航空会社と大きく逆行する徹底的なコストカットに乗り出します。 どのような形でコストカットを実現したのか。その詳細については、次回のコラムでお話ししますので、是非覗いてみてください。 サウスウエスト航空は最終的に、飛行機での移動コストを、車での移動コストと同等以下にまで抑えることに成功しました。 結果として人々は、地方都市間の移動でさえも、車ではなく飛行機という新たな選択肢を使うことになりました。サウスウエスト航空は、これまで車で移動するということが常態化されていた市場において、新たなニーズを切り開くことに成功したのです。 4.ケース面接に活かすアナロジー さて、ただビジネスケースを聞いただけでは、勿体無いですよね。なんとなく"ありきたりな思いつき"に感じた人もいるかもしれません。 しかし、今回のケースを一般・抽象化して頭に入れておくと、今後皆さんが就職活動で散々解くであろう"売上向上施策"を考えるにあたって使える一つの引き出しを手に入れることができるのです。 キーワード①ニッチ市場への集中戦略 サウスウエスト航空が行なった戦略の根幹には、「ニッチ市場」に向けた自社サービスの展開がありました。当時の航空業界にとって主流であった客層を狙わず、あえてその穴を狙いにいく戦い方によって、活路を見出していましたね。 決して大きいとは言えないニッチな市場の顧客を取り込んだ際、企業は既存のシェアを持っている企業に対して、戦うフィールドをずらすことが可能になります。特にこうした戦い方は、圧倒的な市場のリーダーがいる際の弱者の戦い方として有効であることが多いです。 ケース面接のお題の中には、簡易的に状況を設定されている場合が少なくありません。市場におけるリーダー企業を想定する場合もあれば、別の市場から新規参入をする場合もあるでしょう。売上が低迷し、序列が下位に沈んだ企業が設定されている場合もあると思います。 新規参入企業や市場で思うように結果の出せていない企業にとって、強いリーダーがいる本流で戦うことは、過酷な価格競争に参入するなどの難しい競争に足を踏み入れるということを意味します。 一方、リーダーたちが取りこぼした小さなニーズに向けてアプローチをすることができれば、安定した売上の獲得に繋がるということは、今回のケーススタディからお分かりいただけたかと思います。(サウスウエスト航空は当時、僅か3機しか航空機を保有していませんでしたね) ケーススタディにおいても、 "弱者だからこそ"取れるニッチ市場を探してみてください。 キーワード②間接代替材 さて、サウスウエスト航空は「地方間の移動を無駄なく行いたい」と言う顧客のニーズを理解するために、顧客の「今」を突き詰めて考えました。 その結果彼らは、"対象とする顧客の多くは車で移動している''と言う代替手段の存在に辿り着きます。 今回のように、飛行機による移動の市場を考えるにあたって、車のことも考えなければならない、といった事例は、ケース面接においてもしばしば見られるシチュエーションです。 わかりやすい例は「可処分時間の奪い合い」が行われる商材でしょうか。 映画とテレビとゲームと本と... 世の中の娯楽の全ては、同じ「自由時間」というものを消費して初めて享受できるコンテンツです。全ての娯楽は、お互いに直接的な競合にはならずとも、間接的な競合になり得ます。 皆さんも、映画と映画サブスクといった「映像コンテンツ関連商材」を比較し、映画がネットフリックスに勝つためには、という施策を考える事はよくあるかと思います。一方、ゲームや本といった、全く別の娯楽コンテンツとの勝負を考えることは中々無かったかもしれません。 しかしサウスウエスト航空の事例を思い出してみてください。彼らは、「飛行機で地方間の短距離移動をしたい人」ではなく「地方間の短距離移動をしたい人」をターゲットにすることで、より広義な顧客層を通したビジネスモデルの確立と新たな市場の獲得に成功しています。 売上向上施策において「顧客数を増やす」際も、間接的な競合市場を見ることは重要です。"実はシェアを奪いやすい顧客"が他にいるかもしれませんからね。 5. まとめ サウスウエスト航空が「ニッチ市場への集中戦略」を実現し、新たなビジネスモデルを構築したプロセスについて、改めて復習しましょう。 彼らが、大手航空会社の「抜け穴」とも言えるビジネスモデルを確立できた最大の理由は、あえて経営効率の悪い"ニッチ市場"に目をつけたことにありました。 地方小空港同士の移動を求めるユーザーをターゲットにした場合、競合は航空会社ではなく"車"になる。という部分に着眼したことが、格安航空のビジネスモデルを生み出したともいえるでしょう。 もとより車で移動をする人と、飛行機で移動をする人では、抱えている課題や、希望などにも小さくない差分が存在し、必要としているソリューションも異なっていました。その差異を埋められる間接代替材を通して、新たな航空市場を生み出したわけです。 このケーススタディから得られる最大の学びは、経営効率の観点からは非合理的と判断されていたニッチ市場のニーズを正確に捉えることの重要性にあります。ここでいう"正確に捉えた"とは、間接代替材を利用していたような、広義の潜在顧客もターゲットに据えたことを意味です。 一見非合理的に見えた「ニッチ市場への集中戦略」と、その実現に向けた「間接代替材」の創造。この2つの戦略こそが、サウスウエスト航空の最大の勝因でした。マクロの航空業界全体における顧客ニーズと乖離していた僅かな市場を、見逃さなかったわけです。 今回、一口に"顧客ニーズを深掘る"と言っても、様々な方法がある事はお分かりいただけたかと思います。 ケース面接においても、弱者だからこそ取り込めるニッチ市場に目をつけて、間接代替材を通した新規市場の獲得にトライしてみてください。 次回は、サウスウエスト航空の「コストカット戦略」について解説します！！今回のコラムで、「すごいのは分かったけど、机上の空論だろう」と感じた方もいるかもしれません。彼らは、これらの戦略をどのように実現したのでしょうか。また次回のコラムでお会いしましょう!! 6. 詳細解説 ~より勉強したい人向け~ ポーターの基本戦略とは、「コスト・リーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」の3つの戦略に大分されます。 「コスト・リーダーシップ戦略」とは、低価格競争に走ることにより、顧客獲得を目指していくスタイルを指します。基本的には市場でもっともシェア率の高いリーダー企業が行うことが多いとされています。 「差別化戦略」は、幅広いターゲット層に対して、会社として独自の特徴を生かし、その特異性から市場で一定のシェア率を獲得することを目指す戦略です。 「集中戦略」は、徹底的なコスト削減を行う「コスト集中戦略」と、限られた顧客層に絞った上で、自社特有の特徴を生かしてシェア獲得を目指す「差別化集中戦略」の2つに大別されます。 この3戦略は、世界的にももっとも有名な競争戦略のフレームワークとして、さまざまな場面で使われているので、頭に入れておいても良いかもしれません。 今回のケースは、基本戦略のうち、差別化集中戦略に近い戦い方になります。（解釈の仕方によって変わりますが、今回はこうした見方をしていきます） もとよりニッチな市場であった地方同士の移動ニーズに対して、新たな価値を提供して顧客を獲得するような形でしょうか。 基本戦略においてよくあげられる例はモスバーガーとマクドナルドの関係です。 ニッチな市場を狙うモスと徹底したコストリーダーシップをとるマクドナルドの対比は、さまざまな場所で例に挙げられることが多いです(現在モスバーガーは経営に苦しんでいるため、最近の状態を踏まえて優れた例かと言われると微妙ですが…) 企業の生産活動は、規模が大きければ大きいほどに1単位あたりにかかる生産コストが下がっていきます。 全く同じ材料のハンバーガー1個作るにあたっても、大量に生産するマクドナルドの方が安く作れるのは必然です。 できる限り安く生産しようと粘ったところで、企業体力的な問題でモスバーガーはコスト削減の競争に勝つことは基本的にはできないのです。 そこでモスバーガーは、マクドナルドにはない高級路線や健康志向などの別路線からバーガーを売り込むことによって生きながらえる道を選択したわけです。 また別の機会に、このお話も扱おうかと思いますので、またその時に詳しく見ていきましょう。 次回は、サウスウエスト航空がいかにしてコストカットを行なったのかについて、詳しく説明していきたいと思います。 素晴らしい戦略には実行に向けた課題がつきものです。サウスウエスト航空がどのようにして戦略を失敗することなく実行することができたのか。その根本が彼らの最適化された会社全体のオペレーションに隠れています。今回と合わせて、ご一読いただければ幸いです。

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【ビジネスケーススタディVol.1】サウスウエスト航空　後編

【ビジネスケーススタディVol.1】サウスウエスト航空　前編