就活コラム

こんにちは！Tachyon編集部です！ 今回は、アメリカの航空会社「サウスウエスト航空」Part2 と題して、前回コラムの続きとなるコストカット戦略を解説していきます →前回のコラムはこちら！ 1.Part1の振り返り 本編へ入る前に、少しだけ前回コラムの復習をしましょう。 第一回のキーワードは 「ニッチ市場への集中戦略」と「間接代替材」でしたね。「サウスウエスト航空」の驚くべき戦略、覚えていますでしょうか？ 以下、内容を振り返りますので、思い出しながら第二回の物語に備えてください。 1970年代当時、航空業界で最もメジャーだったのは「ハブアンドスポーク」と呼ばれる運行システムでした。拠点となる大きなハブ空港に旅客を集中させ、一気に移動させるというこのシステムは、航空会社にとって効率の良い仕組みである一方、「地方の小規模な空港と小規模な空港間」を移動したい消費者のニーズを取りこぼしていました。 今回の主役である「サウスウエスト航空」は、「ポイントトゥポイント」方式の採用により地方空港間の移動を改善し、新たな航空市場の開拓に成功していましたね。 当時、航空機を３機しか保有していなかった彼らだからこそ成し得た「ニッチ市場への集中戦略」。そして、ニッチ市場を捕まえる際には欠かせない「間接代替材の想定」。 この２つのキーワードを中心に、「サウスウエスト航空」の”非合理的な”生き残り戦略を解説しました。 この「ニッチ市場への集中戦略」と「間接代替材の想定」を通じて、 ①ターゲットを ”中小空港間を移動する” 消費者に ②競合を ”航空機” ではなく安価に移動できる ”自動車” に 設定した彼らですが、最大の問題は”どのようにして”車より安価な航空機を提供するかという部分にありました。 如何に論理的にデザインされた経営戦略でも、その実現に向けた事業戦略・機能別戦略が伴なわなければ無に帰してしまいます。 今回のコラムでは、サウスウエスト航空の戦略を確かなものへと変貌させた驚くべき「コストカット戦略」をご紹介致します。では、始めましょう。 2.サウスウエスト航空のコストカット戦略 サウスウエスト航空が行なったコストカット戦略には、以下4つの大きな要素がありました。 1. 単一機種の運用 2. セカンダリーエアポートの使用 3. 運賃構造の簡素化 4. 機内サービスの簡素化 どれも非常にシンプルですね。実はこのシンプルさが、サウスウエスト航空のコストカット戦略のすごさを物語っています。一つ一つ見ていきましょう。 (1) 単一機種の運用 まずサウスウエスト航空は、全てのフライトにボーイング737を使用することで、運用コストを大幅に削減しました。 一見シンプルなこの単一機種戦略は、サウスウエスト航空のコストカットを大きく後押しすることになります。 サウスウエスト航空が最初に取り組んだのは、パイロットや整備士の訓練費用を削減し、機材の予備品管理を簡素化することでした。結果として、パイロットは一種類の機体のみを操縦すれば良くなったことで専門的な技能の習得が促進され、整備士たちも、特定の機種に特化した知識とスキルを身に付けることができました。 また、全く同じ飛行機を使用することによるメリットは他の部分にもあります。修理や交換に利用する部品も全て同一であるため、部品の在庫管理と交換作業が効率化され、整備時間の大幅な短縮が実現されたのです。整備用部品や工具の無駄な購入が減少したり、搭乗員管理の簡略化によってフライト時間が最適化されたり、単一機種戦略によるメリットは、枚挙にいとまがありません。 (2) セカンダリーエアポートの使用 続いてサウスウエスト航空は、主要都市のセカンダリー空港を積極的に使用することで、空港使用料を抑える戦略を取りました。セカンダリー空港とは、各都市地方における二番手の空港のことを言います） セカンダリーエアポートは、発着にあたっての利用料金が安いことが特徴です。そのため航空会社は、主要な空港に比べて安い価格で飛行機を運行することができます。 利用者数の少なさゆえに、混雑による遅延が起こりにくく、航空会社はより効率的にフライトスケジュールを組むことが可能であるという思わぬポイントも外せません。スケジュールを効率化し、フライト回数の最大化を行うことで、一日に運ぶ乗客数を増やすことができ、売り上げの増加にもつながりました。 (3) 運賃構造の簡素化 複雑な運賃体系を避け、シンプルで一貫した低価格の運賃構造を採用したことも、サウスウエスト航空の成功に大きく寄与しました。例えば、全席を同一価格のエコノミークラスとして運用することで、予約プロセス並びにチケットの発券、確認の工程を容易にしています。ターゲットが明確で、戦略のベクトルにも常に一貫性があることがよく分かると思います。 運賃の分かりやすさは、顧客のリピート利用を促し、ブランドへの忠誠度を高める効果も生んでいます。 しかし、最も興味深いのは、座席に区別がなくなったことで乗客の席が全席自由席になったことです。乗客はそれぞれ自分の好きな席に座るために早めに飛行機に搭乗する様になり、飛行機の遅延を防ぐことにも貢献するという意外な効果を生み出しました。 (4) 機内サービスの簡素化 ここまで徹底してきた「サウスウエスト航空」が、不必要なサービスやアメニティーの削減に手を出さないはずがありません。無料の機内食を一切廃止。代わりに軽食や飲料のみを提供することで、コストを削減しています。 今回のポイントtoポイントの方式によって対象となる顧客は「短中距離の移動」を前提としています。 長い距離を移動するからこそ必要性の高まる機内食などのサービスは、彼らにとってあまり需要が高くないのは自明ですね。 以上の4つの施策を踏まえて、彼らの徹底ぶりがお分かりいただけたかと思います。 「コストカット戦略」に限らず、 戦い方が変われば、対象とするセグメントも変わる。セグメントが変われば、求められるニーズも変化する。ニーズが変われば、提供するサービスも大きく変わる。 誰しもが頭では分かっていることです。彼らが凄まじいのは、その”徹底ぶり”と、”実行力”でしょう。 3.ケース面接に生かすアナロジー では、サウスウエスト航空の実例から学ぶことができる考え方のアナロジーを探っていきましょう。 1,3で示した、単一機種のみの保有及び単一運賃の設定は、極端なノーマライゼーションを実行することによってコストカットを達成した例になります。 ※ノーマライゼーション： 近しい事例では、＃フォード生産方式・＃ライン生産方式があげられるでしょうか。 作業工程を画一化し、使用する素材も同一にすることで、作業にかかる人件費並びに製造にかかる材料の仕入れ費用を削減する方法です。 「サウスウエスト航空」のケースでもご紹介した通り、 ①同じ部品だけを大量に買うことができるので、仕入が安く済み、無駄な在庫を抱えるリスクも最小限に抑えることができる ②各製造プロセスが一様であるがゆえに工員の育成が早く終わり、製造効率が改善される。 これら2つのポイントかもお分かりかと思いますが、「コストカット戦略」における＃ノーマライゼーションは、絶大な効果を持っています。 少品種大量生産の戦略は、主に収益率を高めるにあたって有効度の高い施策になります。ケース面接のお題で、利益最大化を求められるような状況下においては、一つの有力な選択肢になるでしょう。 一方、ケース面接において「新しいメニューを増やす」「新規市場に参入する」といった回答を出すことも少なくないかと思います。 このように「これまでなかったものを会社として売り出し始める」動きは、ノーマライズの動きに対して逆行する施策になります。 もちろん、そういった施策を出すことがダメなわけではないのですが、新しいメニューを増やした場合、⑴どの様なコストが出るのか、⑵どれくらい売れれば採算が取れるのか ⑶実際その採算がとれる額（損益分岐点）以上に売り上げられる見込みは立つのか 等々については検討をしておいた方が、施策における説得力は上がるかと思います。 対して2(セカンドエアポート)や4(機内サービスの簡素化)に関しては、”ターゲティングした顧客のニーズ”と”打ち手”の整合性が非常に重要になると言えるでしょう。 本来であれば、メインの空港に対してセカンダリーエアポートは避けられがちな選択肢です。メインの空港の方が、色々な場所にアクセスが良いことを踏まえれば、当然の話です。 ここでいうメインの空港というのは、ハブ空港を中心とした大規模空港を指すわけですが、当然ながら今回、相手とする顧客はハブ空港に用がある顧客ではないですよね。 アクセスの良い人気な空港を利用したい、というのは、旅客機を利用した移動を行うほとんどのユーザーにとってごく当たり前の基準です。加えて、長距離の移動を求めているユーザーにとっては、美味しい機内食、映画が見れる個人向けのディスプレイは、窮屈な席に長時間拘束されるストレスを忘れるために必要不可欠でしょう。お金を払ってでも広い席に乗りたいという人がいれば、ビジネスクラスの席を予約するということも、なんら珍しいことでもないと思います。 しかし、今回相手にしているのは「安価に」「短距離を」「早く」移動できることを期待している人たちであるという点を忘れてはいけません。この場合、相手とする顧客セグメントは従来の顧客セグメントと全くもって異なるといって良いでしょう。 あえて狙うセグメントをずらし一種の”非合理性”を許容することで、 新たなニーズを正確に抽出した事例は、他にもあります。 男性向け化粧品や、女性向けDIY用品、左利き向けの工具などもその一例でしょう。 女性向けDIY用品を例に取ると ただ色を変えたり、販路を変えて女性にアプローチをするだけでは、十分にニーズを捉えたとは言えません。 そもそも男性と女性では、作りたいものの種類が異なる傾向にある可能性があります。道具の重さも軽いほうが、女性にとっては扱いやすいため、購入へのハードルが下がるでしょう。 ケース面接においても、「現在はあるセグメントにおいて有名ではない商材をそのセグメントにどうやって売るか」という題材のケースは少なくありませんよね。 その商材が今の段階で刺さっていない層にアプローチをするわけですから、根本的なニーズの違いを捉える必要があります。その商材に新たな特性を加えたり、一般大衆へのアプローチ方法を変えたりと、より上流の側面での改革を行うことが重要であるということです。 5. まとめ さて、ここまで「サウスウエスト航空」を題材に、「ニッチ市場への集中戦略」と、その戦略を実行に移すための「コストカット戦略」を取り扱ってきました。 今後皆さんがケース問題を考えるにあたって、「あの例が参考になるな」という一つの引き出しにしていただければと思います。 ”ケーススタディ”コラムでは、今後も様々な企業の戦略を物語として紹介しながら、ケース面接に生かせるTipsを解説していく予定です。 もう一度お伝えします。皆さんに習得してほしいのはあくまで、”戦略の思考法”。ひとつひとつのケーススタディを暗記することや、ケース面接にフレームワークとして脳死で当てはめることではありません。過去の事例から各社の戦略の背景を知るだけでなく、その”自由度”を通して経営戦略の世界を堪能していただきたいと思います。 さて、次回のケーススタディコラムの舞台は”自動車業界”へ。 1900年代初頭のフォードとゼネラルモーターズの盛衰についてのお話をしようと思います。お楽しみに！！