ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 楠木 健 著
3,080円(税込)
著者紹介
楠木建(くすのき・けん)
1964(昭和39)年東京都に生まれ、幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院国際企業戦略研究家(ICS)教授。一橋大学商学部卒、同大学院商学研究科博士課程修了。2010年より現職。専攻は競争戦略。
著書に、『「好き嫌い」と経営』、『「好き嫌い」と才能』(ともに編著、東洋経済新報社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(文藝春秋)、『室内生活』(晶文社)、『好きなようにしてください』(ダイヤモンド社)、『経営センスの論理』(新潮新書)、『戦略読書日記』(ちくま文庫) などがある。
書評
この本の主題は、「流れと動きを持った”ストーリー”として戦略を捉える視点にこだわって、競争戦略と競争優位の本質をじっくり考えること」である。コンサル就活生の中でも、「ケース対策に力を入れて、戦略やフレームワークの勉強を頑張っている人」にこそ、この本は読んでもらいたい。なぜなら、ビジネスの学習には「対策をすればするほど、戦略の本質が失われていく」というジレンマが生じやすいからである。
ケース面接やジョブ選考における戦略策定の場面で、就活生が何気なく行いがちな分析やフレームワークの使用によって戦略がその本質から離れていくことがよくある。また、企業を助けるべく作られてきた戦略理論が、筋の良い戦略づくりをかえって阻害しているケースも少なくない。これを乗り越えるためには、「戦略とは何か」「優れた戦略とはどのようなものか」を理解しなければならない。その際のキーワードが本書のタイトルにもある「ストーリー」だ。
「戦略」とは何か。本書では、戦略の本質を「違いをつくって、つなげる」と表現している。競争環境の中で業界平均以上の利益が上がっているのなら、何らかの「違い」が認められ、違いがなければ経済学的には「完全競争」、つまりは余剰利潤がゼロとなってしまう。また、個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略にならず、それらの組み合わせや相互作用によってはじめて持続的な利益が実現される。これが上の主張の中身だ。この主張をきちんと解釈することは、コンサル就活生のみならず、ビジネスを学ぼうとする全ての人にとって間違いなく価値がある。
ここで抑えるべきは、戦略が「アナリシス(分析)」から生まれるものではないということ、そして、「シンセシス(綜合)」こそが戦略の神髄であるということだ。戦略理論の多くは、世にある様々な事象を一般化し、「普遍の法則」を導くことによって企業の経営を助けようとするものだ。もし、その理論が指し示すのに従って法則的に戦略が導けるのであれば、全ての企業が簡単に成功ができてしまうし、もっと言えば素人でも子供でも、誰であっても経営者を務められるということになってしまう。再現性をもたらすためには理論やフレームは必要だが、競争に勝つためには様々な打ち手を互いに結びつけ、その因果関係や相互作用を重視する視点が必要である。さらにそこに時間軸の概念が持ち込まれ、「流れ」と「動き」のある戦略が描かれる必要がある。これらが綜合された戦略の形として「ストーリー」を打ち立てる。これが戦略策定の肝だ。
理屈や理論に偏重してしまいがちな就活生には「ストーリー」の重要性を抑えてもらいたい。フレームワークやテンプレートから分析的・機械的に方向性を導いてしまうことは必ずしも悪ではないが、それらに依存してはならない。就活をしていると、どうしても対策厨・効率厨に寄ってしまうもので、ケース面接では過度にフレーム化・パターン化した解答を作ってしまう就活生も多く見られる。そんな方にはぜひ本書を手に取って欲しい。あなたの戦略策定が生きたもの、動きのあるものになり、戦略にストーリーが生まれれば、その提案はより優れたものに、人を動かすものになる。